ケーゾクケーカク

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【短編ミステリー】放課後の「102%」の謎

 

進学校に通う高校2年生のハルは、合理主義で冷めた視点を持つ少年。ある日、彼は校内掲示板に貼り出された「学食の満足度アンケート」の結果グラフに、奇妙な矛盾を見つけます。

集計されたパーセンテージをすべて足すと、なぜか「102%」になるのです。

単なる計算ミスや四捨五入の誤差として片付けられそうな些細な違和感。しかし、図書委員のアキ(鋭い観察眼を持つ女子生徒)と、ハルの親友で購買部に入り浸るレン(情報通の男子生徒)と共に調査を進めると、その「2%」の余剰には、ある生徒が仕組んだ「優しくて切ない嘘」が隠されていました。

 

 

【登場人物】

ハル:冷静沈着。数字の矛盾に敏感な男子高校生。

アキ:図書委員。本に挟まれた「しおり」の動向から人の行動を予測する女子高校生。

レン:バスケ部。人当たりが良く、校内の噂話や人間関係に精通している男子高校生。

食堂のおばちゃん:生徒たちに慕われる、元気な運営責任者。

不登校気味の後輩:この謎の鍵を握る、控えめな1年生。

 

 

 

 

「この世界は、計算通りにいかないことの方が多い。だが、計算が合わないのには必ず理由がある」

僕、ハルは、廊下の掲示板に貼り出された一枚のプリントを指先でなぞった。それは先週実施された『学食・新メニュー導入に関する満足度アンケート』の結果報告だった。

「どうしたの、ハル。そんなに真剣にグラフを睨みつけて」

背後から声をかけてきたのは、図書委員のアキだ。彼女は眼鏡の奥の瞳を細め、僕が見ている円グラフを覗き込んだ。

「アキ、これを見て。『非常に満足』が42%、『満足』が35%、『普通』が15%、『不満』が10%……」

「……合計、102%ね」

アキは即座に答えを出した。

「四捨五入の加減じゃないの?」

「いや、回答者数はちょうど500人。1%が5人。端数が出るはずないんだよ。誰かが意図的に数字を操作したか、もしくは――」

「おーい、二人とも! 何か面白いこと探してんのか?」

廊下の向こうから、バスケ部のレンがプロテインシェイカーを振りながらやってきた。

「レン、いいところに。学食の運営委員に知り合いがいなかった? 今回のアンケート、誰が集計したか知ってる?」

レンはニカッと笑って答えた。

「それなら、食堂のおばちゃんと、手伝いの1年生がやってたはずだぜ。あそこのおばちゃん、計算は苦手だけど、生徒の顔と名前を覚えるのは天才的だからな」

 


 

僕たちは放課後の食堂へ向かった。 西日が差し込む食堂では、責任者の「おばちゃん」がテーブルを拭いていた。

「あら、ハル君にアキちゃん、レン君も。アンケートのこと? ああ、あれね……」

おばちゃんは少し困ったように眉を下げた。

「実はね、集計原票を一度失くしかけちゃって。1年生のサトシ君が必死に探し出して、まとめてくれたのよ。彼は最近休みがちだったんだけど、あのアンケートの手伝いだけは熱心にやってくれてね」

僕たちは、図書室の片隅でサトシがまとめたという集計原稿を確認させてもらった。そこには丁寧な字で正の字が並んでいたが、やはり合計は「510票」になっていた。全校生徒のアンケート回収数は500枚。10枚多い。

「ハル、これを見て」

アキが「不満」の欄を指差した。

「ここだけ、紙の質が少し違うわ。あと、ペンのインクの乗りも」

アキの指摘は正しかった。10枚分のデータだけ、後から付け足されたような不自然さがある。

「不満が10枚多い……普通、改ざんするなら『満足』を増やすだろ?」

レンが不思議そうに首をかしげる。

僕は、その「10枚の不満」の内容を確認した。そこには共通してこう書かれていた。

『B定食の味付けが、以前より少しだけ塩辛くなった気がする』

 


 

「サトシ君を呼んでいいかな」

数分後、現れた1年生のサトシは、僕たちの前で肩を窄めて立っていた。

「……すみません。僕が10枚、偽造しました」

彼はあっさりと認めた。しかし、その理由は意外なものだった。

「おばちゃん、最近少し疲れてるみたいで。味付けが濃くなっていることに、みんな気づいてるけど、おばちゃんを傷つけたくなくて誰も言わないんです。アンケートにも『満足』って書いちゃう。でも、このままだと本当におばちゃんの料理の評判が落ちてしまうと思って……」

「だから、あえて『不満』を水増ししたの?」

僕の問いに、サトシは頷いた。

「匿名の不満が多ければ、おばちゃんも『最近、疲れで手が狂ったかしら』って、自然にレシピを見直してくれる。でも、既存の『満足』票を捨てる勇気はなくて……ただ10枚、付け足してしまったんです」

「102%」の正体は、おばちゃんの味を守りたいという、不器用な後輩の「2%の優しさ」だった。

 


 

「数字は嘘をつかないけど、数字を作るのは人間だからね」

帰り道、僕はアキとレンにそう言った。

「ハルにしては、詩的なこと言うじゃん」

レンが僕の背中を叩く。

「でも、明日からのB定食、楽しみね」

アキが少しだけ口角を上げて笑った。

校門を出る時、僕たちの影が長く伸びていた。 世の中の矛盾をすべて暴くのが僕の主義だが、たまには正解を教えずに、ただ見守るべき数式もあるのだと知った。

 


 

【完】

 

 

 

 

いかがでしたでしょうか。

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